大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成6年(ネ)399号 判決 1995年1月27日

控訴人

木下里美

森理江

右両名法定代理人亡浅井永生相続財産管理人

木下里美

右両名訴訟代理人弁護士

森田尚男

控訴人

株式会社井上段ボール

右代表者代表取締役

井上博司

右訴訟代理人弁護士

浅野隆一郎

控訴人木下里美、同森理江補助参加人

水野利廣

株式会社山廣製陶所

右代表者代表取締役

水野利廣

右両名訴訟代理人弁護士

伊藤典男

伊藤倫文

被控訴人

大畑町部落有財産管理組合

右代表者組合長

加藤正夫

被控訴人

加藤正治

右両名訴訟代理人弁護士

高木修

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  訴訟の総費用中、参加によって生じた部分は補助参加人らの負担とし、その余は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人木下里美、同森理江

(本案前の控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人らの控訴人木下里美及び同森理江に対する訴えをいずれも却下する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(本案についての控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人らの控訴人木下里美及び同森理江に対する請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴人株式会社井上段ボール

(本案前の控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人加藤正治の控訴人株式会社井上段ボールに対する訴えを却下する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人加藤正治の負担とする。

(本案についての控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人加藤正治の控訴人株式会社井上段ボールに対する請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人加藤正治の負担とする。

三  被控訴人ら

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、第一審判決の事実欄第二に記載されているとおりであるから、これを引用する(ただし、同記載中の「被告浅井」とあるのを「控訴人森」と訂正する。)。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載されているとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人らの本案前の主張について

本件訴訟において、最高裁判所が控訴人らの本案前の主張について、差戻しに際して、被控訴人組合が本件総有権確認の訴えの原告適格を有し、被控訴人組合の代表者である組合長加藤正夫が同訴訟を同被控訴人の代表者として追行する権限を有するとした判断、及び被控訴人加藤正治(以下「被控訴人加藤」という。)が本件登記手続請求訴訟の原告適格を有するとした判断は、民事訴訟法四〇七条二項ただし書により、当裁判所を拘束するので、当裁判所は、この点について判断しない。

二  本案の請求について

1  当裁判所も、本件土地は、被控訴人組合の構成員の共有の性質を有する入会権の目的となっている土地であり、右構成員の本件土地に対する共同所有の形態は総有であると判断するが、その理由は、次のとおり訂正するほか、第一審判決の理由欄第二、一に記載されているとおりであるから、これを引用する。

(一)  第一審判決一六丁裏七行目の「第一九号証の一、二」を「第一九号証の一」と訂正する。

(二)  同一〇行目の「第一四号証、第一六号証、」を「第一四ないし第一六号証、第一九号証の二及び」と訂正する。

(三)  同二〇丁表四行目の「権利者であった者三名」を「権利者であった鈴木教太郎を含む四名」と訂正する。

2  抗弁1(入会権(総有)の解体)について

入会権は、慣習によって発生し、事実の上に成立している権利であるから、慣習の変化により入会地上の使用収益が入会団体の統制の下にあることをやめるに至ったときは、入会慣行は消滅し、これに伴い、入会地に対する入会団体構成員の総有関係も消滅するものと解すべきである。そして、入会の解体過程のいかなる段階において入会権が消滅したと判定すべきかの基準としては、入会権の本質的な特徴、即ち当該入会地の使用収益等について単なる共有関係上の制限と異なる入会団体の統制が存するか否か、具体的には、入会団体の構成員の資格の得喪と使用収益権の得喪が結びついているか、使用収益権の譲渡が許されているか等の諸事情により判断すべきである。

前掲甲第一号証、成立に争いのない乙第三号証の一ないし四、第五号証の一ないし二一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一、二、第三四号証の一ないし三、第三五、第三六号証、第三七、第三八号証の各一ないし四、第三九号証の一ないし五、第四〇ないし第四二号証の各一ないし四、第四三号証の一ないし六、第四四号証の一ないし七、第四五号ないし第四七号証の各一ないし四、第一審証人鈴木稔の証言(第一、二回)及び第一審における検証の結果によれば、被控訴人組合の構成員による本件土地の利用形態は、昭和以降、薪材、茸等の産物を採取するという、いわゆる直轄利用形態は漸次見られなくなり、昭和四八年頃からは、本件土地の相当部分を、珪砂等の採掘を目的として鉱業会社に賃貸する等、被控訴人組合の構成員以外の者と契約を締結し、その対価を得るという方法の利用、いわゆる契約利用形態に移行したこと、右による収益金は、被控訴人組合の歳入として被控訴人組合により管理され、被控訴人組合の運営費及びその構成員が利用する神社、公民館等の共同施設の設置、管理等の費用として支出されていること、現行の改正規約によっても、本件土地の使用収益は、被控訴人組合により制約され、その構成員による持分の譲渡は認められず、被控訴人組合の構成員としては、大畑町の地域内に居住し、かつ、運命共同体的な部落内の相互互助生活を共にする世帯の世帯主で、昭和四八年一二月一六日現在において、引き続き五〇年以上居住する者とされ、構成員が大畑町地域内より転出した場合は、その構成員としての資格を失うものとされていること、また、新たに構成員になるためには、一定の要件を満たし、かつ、総会の承認を得なければならないものとされていること、以上の事実を認めることができる。

右事実によれば、被控訴人組合の構成員による本件土地の利用形態は、直轄利用形態から契約利用形態に移行しており、その構成員の資格の得喪にも変化がみられるものの、いまなお、本件土地の使用収益は入会団体である被控訴人組合の共同体的統制の下にあり、その構成員の資格の得喪と使用収益権の得喪との結びつきも完全に失われたとはいえず、いまだ入会権の性格を失ったものということはできない。したがって、抗弁1は理由がない。

3  本件土地につき、大正四年五月二六日付で鈴木教太郎を含む加藤音次郎外二三名につき各持分二四分の一とする所有権移転登記がされていること、右鈴木教太郎の持分につき、昭和四九年一一月一二日付で相続を原因として鈴木きわ及び浅井操に移転登記がされ、更に、鈴木きわ及び浅井操の右各持分につき、同日付で相続を原因として浅井永生に移転登記がされ、次いで、浅井永生の右持分につき第一審主文第三項記載の持分全部移転請求権仮登記及び抵当権設定登記がされていること、浅井永生は、昭和五七年三月五日死亡し、控訴人木下及び同森が同人を相続したこと、同控訴人らは被控訴人組合の構成員全員が本件土地を総有していることを争っていることは当事者間に争いがない。

なお、証人鈴木稔の前記証言及び弁論の全趣旨によれば、鈴木教太郎は、もと大畑部落民で、本件土地の入会権者であったが、大正末頃、大畑部落から転出したことが認められるところ、前認定のとおり、大畑部落から他所に転出するときは本件土地を含む本件共同財産に対する権利を当然に失うという入会慣行が存したのであるから、同人は、右転出の時点で、本件土地の入会権を喪失したものというべきである。

そして、前認定のとおり、本件土地は、被控訴人組合の構成員の総有に属するものであり、鈴木教太郎はその共有持分を有しないから、浅井永生及びその相続人である控訴人木下及び同森が右持分を承継取得することはできず、前記浅井永生に対する持分移転登記は、実体的権利関係を欠く無効な登記といわなければならない。

以上によれば、被控訴人組合の控訴人木下及び同森に対する本件土地が同被控訴人の構成員全員の総有に属することの確認請求は理由があるものというべく、また、被控訴人組合の構成員から同構成員全員のために登記名義人となる権限を授与された被控訴人加藤は、浅井永生の相続人である控訴人木下及び同森に対し、真正なる登記名義の回復を原因として、本件土地につき、浅井永生の持分全部移転登記手続を求めることができるものというべきである。

4  抗弁2(虚偽表示)について

本件土地につき、大正四年五月二六日付で当時の大畑部落の戸主全員である鈴木教太郎を含む加藤音次郎外二三名につき各持分二四分の一とする所有権移転登記がされているが、本件土地は、大畑町部落に居住する一定の資格を有する者によって構成される入会団体の構成員全員の総有に属して現在に至ったことは、前認定のとおりである。総有の対象である本件土地については、もともと共有持分というものは存在しないものであるにもかかわらず、あえて右共有登記がされるに至ったのは、共有の性質を有する入会権における総有関係を登記する方法がないため、単に登記の便宜から登記簿上前記二四名の共有名義にしたにすぎないものというべく、これを通謀虚偽表示に基づく登記ということはできず、民法九四条二項を適用又は類推適用することはできない(最高裁昭和四二年(オ)第五二四号同四三年一一月一五日第二小法廷判決・裁判集(民事)九三号二三三頁)。したがって、抗弁2は理由がない。

5  そうすると、前認定のとおり浅井永生は本件土地の持分を取得していない以上、控訴人井上段ボールは、本件土地につき共有持分を取得し、また有効に抵当権の設定を受けることはできないから、同控訴人に対する前記持分全部移転請求権仮登記及び抵当権設定登記も、実体的権利関係を欠く無効な登記といわなければならない。したがって、被控訴人加藤は、控訴人井上段ボールに対し、右各登記の抹消登記手続を求めることができるものというべきである。

三  以上によれば、被控訴人らの本訴各請求は、いずれも正当として認容すべきものであり、これと同旨の第一審判決は相当であり、本件各控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 河邉義典 裁判官 岡本岳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例